ながさきプレスWEBマガジン

  • 第15回 「早岐茶市をぶらり」

    物々交換から始まった早岐の茶市を訪ねて

     「市(いち)」って何だか、すごくワクワクする。一つの場所に、あちこちからいろんな人がいろんな物を持ち寄って、ワイワイがやがや、いい意味での雑多さや活気が溢れていて。威勢のいいおじちゃんおばちゃんに声をかけられたり、珍しい食べ物や、ちょっと怪しげなもの、へんてこりんなものも紛れていたりして。日本以外では、フランスの「マルシェ」なんかを訪ねたこともあるけれど、国が変わってもあの不思議な高揚感は、変わらない。期間が終わるとあっという間にたたまれて、何も無い、いつもどおりの日常の風景が戻ってくるというのもいい。夢から覚める、とでもいうのかな。あのわずかな時間だけの「お祭り感」が、ワクワクの正体なのかもしれない。
    モノクローム写真  さて、そういうわけで、今回旅をするのは佐世保市・早岐で毎年開催されている「早岐茶市」。初夏の頃、早岐瀬戸の水辺に、ブルーシートで覆われた(このブルーシートというのがまた、ローカル感があって憎めない)店がずらりと立ち並ぶ。「茶市」の名の通り、彼杵茶や嬉野茶など、周辺地域の新茶の店が多いが、それ以外に干物や塩辛などの海産物や、野菜、乾物なども売ってある。もともとは海と陸、両方の交通の要所であった早岐で、山に住んでいた猟師と海辺に住む漁師が、互いに物々交換を行ったのが始まりと聞けば、その品揃えにも頷ける。 包丁をうるおばちゃん
    かごやお茶の量り売り 早岐茶市の歴史は何と400年以上も遡り、江戸末期から明治中期の最盛期には五島や平戸をはじめ、周囲の島々から600隻以上もの船が集まる大規模な市が開かれていたそう。博多や佐賀、長崎からも商人や見物人が集まったという。

    ぶらぶら、あれこれ、掘り出し物さがし

     歴史の勉強もほどほどに、早速市へ出かけよう。と、言いたいところだが、市周辺は大変な賑わい!平日だというのに車がいっぱいで、茶市の人気をうかがわせる。不都合でなければ、公共交通で行くのが正解かも。やっとのことで車を停め、てくてく歩いて市へ。 途中すれ違う人たちが、みんな白いビニール袋を提げて戦利品を持ち帰っているのが、何だか可愛らしかった。
     市につくと、あちこちから漂ういろんなにおい!お茶に干物に、漬物に…あ、そういえば「しいたけ」の香りをお店の人にかがされたりもして。お腹がすくったらないけれど、あれこれ試食できるので、それで小腹を満たした。 包丁や農具、竹細工など工芸品の店も多くあり、いつの間にやら買い物に熱中。あれこれいろんなものとの出会いがあった。

    のんびりとした風情の早岐のまちも歩いて…

     「早岐茶市」の期間中は、市の中だけでなく町の周辺の店も活気付く。居酒屋さんがお弁当を売ったり、小さな商店が軒先で飲み物を売ったり。本当に、町をあげて盛り上がる市なのだな、と実感する。路地裏を歩いていると、途中「無料休憩所」と看板を出す、資料館のような建物を見つけて中へ。すると、モノクロの写真が壁一面に飾られ、数十年前の懐かしい茶市の風景を伝えているではないか!今は陸路が整備されているが、ほんの数十年前まではみんな船でやってきて、早岐瀬戸にずらりと船を並べ、市が終わると船の中で寝泊りもしていたという。歴史を知らなければ、茶市が瀬戸沿いで開かれる理由など知る由もないが、歴史を知って再び市を見やれば、水辺に船の姿が浮かぶようである。 いろんな人が、いろんな物を持って、いろんな期待を抱きながらこの瀬戸の急流を登ってきていたのだな…なんて、ロマンを感じずにはいられない。
     「早岐茶市」は5月と6月、初市・中市・後市・梅市の4回に分けて開催されている。6月は、7~9日に最後の「梅市」が開かれる予定。地域の人々にとっては、夏の訪れを告げる風物詩でもある「茶市」、ぜひでかけてみてはいかがだろう。

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