綿施さんのうつわは不思議だ。一見素朴なようで、手に取るとその繊細さにハッとする。原始的な表情を持つようで、存外現代的な空間にも自然に馴染む。説明しよう、形容しようとすればするほど言葉は出なくなり、ただ、そこにあるうつわに素直に惹きつけられるのだ。
出島に建つ築60年を超えるビルの一画にある、綿施さんの工房〈CRAYWORK〉。ぴりりと心地よい緊張感と同時に、静かに流れる穏やかな空気。綿施さんはこの場所で、ほぼ毎日制作を行なっている。その手法は土の塊を削り出して、形を作っていくというもの。大きなオブジェから小さなうつわまで、生み出される作品はさまざまだが、どれもが置くだけでスッと周りの空気をも変えてしまうような、そんな佇まいだ。このカップの取っ手も後付けではなく、一つの塊から削り出したもの。一見不釣合いにも思える大きな取っ手や穴の無い取っ手。指が入らなかったり、成形の過程で自然に現れた溝がそのまま活かされていたり…。それらはもしかすると「機能的」ではないかもしれないし、土にふれているようなざらざらとした手触りも、釉薬の絶妙な色合いも、「必要ではない」かもしれない。けれども機能とか実用とか、そんな次元をひょいっと越えて、なぜか胸に引っかかるのだ。もっと心の深いところで「いいな」としんみり感じてしまうのだ。
綿施さんは語る。その「なぜかわからない、でもいいな。好きだな」と感じるときの直感を受けとめてほしい、と。理屈はわからなくていい。胸に響いたものに素直に反応すること。そんなモノとの出合いが、ここにはあるのかもしれない。
つくり手:綿施和子 WATASE KAZKO
以前はグラフィックデザイナーであったが、その仕事に迷いを感じている時に、偶然旅先で「土」と出合う。以来福岡、東京、長崎と拠点を移しながらも35年間陶制作を続ける。昨年KTNギャラリーにて個展「綿施和子展」を開催するなど、定期的に個展活動を続けている。
CRAY WORK
綿施さんの仕事場兼ギャラリー。綿施さんの作品が生まれる、シンプルで居心地の良い空間。ぜひ気軽に訪ねてみて。
・写真のカップ 4,000~7,000円
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