端午の節句が近づくと、長崎の和菓子屋さんには「鯉菓子」が並ぶ。本物の鯉と見紛うほど精巧なものから、デフォルメされた可愛らしいものまで、その姿は店によってさまざまだ。
鯉は中国の故事で、黄河の急流にある「竜門」と呼ばれる滝を登り、竜に化身したことから、立身出世の象徴とされる。
鯉のぼりや鯉菓子は、急流を勢いよく登る鯉の勇壮な姿に、男の子の健やかな成長を願う心を託しているのだ。
1830年創業の岩永梅寿軒の鯉菓子は、今にもぴちぴちと飛び跳ねそうなほどリアルだ。
見た目もさることながら、持ち上げたときに、頭と尾がくったりと垂れる、その重量感も本物のよう。
もちろん、全て職人による手づくりだ。
まず、ほんのりと芳ばしい「煎り餅」で、上品な甘さの白あんを包み、おおまかな魚の形に整える。
それを木型に詰めて鯉の形に仕上げるのだが、この木型も凄い。うろこの一枚、ひれの筋一本まで細密に彫り上げられている、代々受け継がれてきた伝統の型なのだ。
黒、赤、黄の3色による彩色は、職人のみが知ることを許される秘技。
最後につやを出すための寒天を塗った瞬間…まるで鯉が水面にゆっくりと浮かんできたかのように、生き生きとした表情を見せる。
「昔から長崎では、初節句のお返しに鯉菓子を差し上げてきた。
その文化が今も残っていることが、何より素晴らしいでしょう」と、6代目・岩永徳二さんは目を細めながら語ってくれた。
岩永梅寿軒 IWANAGABAIJYUKEN
1830年(天保元年)創業の和菓子店。銘菓「寒菊」、「もしほ草」で有名。明治32年の建造以来ほぼ変わらぬ姿を残す、店のたたずまいも素晴らしい。
岩永梅寿軒
長崎市諏訪町7-1 TEL:095-822-0977 10:00~20:00 不定休 Pなし
HP:http://www.baijyuken.com/
※「丸鯉」1尾950円(箱なし)~、「長鯉」は2尾セットで小2,800円、中3,800円、大5,200円。4月末~5月初旬の期間限定販売。予約、地方発送も可
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