ありそうで、ない。
Pebbleだけのやきもの
2013年の春、やきものの町・波佐見に新たな陶磁ブランドが生まれた。〈Pebble Ceramic Design Studio〉。手がけるのは波佐見出身で、父親も原型師だという石原亮太さんだ。
石原さんは有田工業高校、有田窯業大学校でやきものについて学び、ドイツの芸術大学にも留学。福岡県で生活雑貨の卸売・企画等を行う企業に5年半勤めたのち、波佐見へ帰郷した。ただモノをつくるだけでなく、そのモノの良さをどう伝えるか―つかい手の顔が見える場でのディレクションの経験は現在にも活かされており、仕事も充実していたそうだが、「自分にしかできないことは何か」という想いを強くしたとき…やはり、原点である「やきもの」に行き着いた。
〈Pebble〉の代表的な商品のひとつが、貝殻をモチーフにした花器「Shell Vase」シリーズ。海辺で綺麗な貝殻を拾い、宝物のように飾る―そんなワンシーンをすくい上げ、花がなくてもインテリアになるよう考えられた商品だ。コンセプトはとてもポエティックで優しい、けれど、造形的な美しさにも妥協はない。貝殻“らしさ”をうまく落とし込んだ精緻なフォルムは、(いい意味で)“こだわりすぎ”とさえ感じるほどだ。
白地に茶色でお花の模様を描いたうつわのシリーズも、一見した可愛さの奥には、“ここまでやるのか”と思うほど細かなこだわりが隠れている。模様は一枚一枚、全て手描き。お花の部分にのみ撥水剤を施してから釉薬をかけることで、他にはないマットな質感を生み出す。ありそうであまりない、スクエア型も新鮮だ。
こうした細部へのこだわりは、もちろん技術的な難易度を上げ、工程の手間を増やす。だが、独立時の想いは「自分にしかできないこと」。石原さんが日々の暮らしで感じる「こんなものがあったら」というアイデアの種を大切に、“ありそうで、ここにしかない”商品を生み出してゆく。
また、大量生産品にはない人の手を感じられるものづくりには、分業制で、まち全体がやきもの工場のような、波佐見の職人さんたちの技も欠かせないそうだ。
…と、ここまでの紹介で浮かぶ石原さんの姿は、えらくストイックで気難しそうだろうか。だが、実際の石原さんは、とにかく“楽しそう”なのである。やきものについて長年勉強し、企業での経験も積んだ石原さんだから…当然、マーケティング的な視点も持っているであろうし、シビアな視点も持っているだろう。でも、そんなことより何より、少年のように嬉々として貝やヒトデを観察し、趣味である料理の話に熱くなる石原さんは、ただただ“楽しそう”なのだ。石原さんがこだわっているのはデザインの細部ではなく、自身が「好き」「楽しい」「美しい」と感じる物事について、妥協をしないことではないか―そんな姿勢でものづくりをする人々が、私たちの暮らしをそっと、明るく照らしてくれるのかもしれない。
Pebble Ceramic Design Studio ペブルセラミックデザインスタジオ
東彼杵郡波佐見町折敷瀬郷1264 TEL:090-9606-3113
http://pebble-st.com/
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