私の軍艦島、彼の軍艦島
これからの誰かのための軍艦島
とにかく一度見てみたい人々の興味をかきたてる島
ガンショーくんというキャラクターをどこかで見たことはありませんか?これは、軍艦島デジタルミュージアムで作成された軍艦島のアニメーションの主人公。「ガンショー」とはつまり岩礁、海底のプレートが盛り上がった軍艦島の土台なのですが、目鼻口がついています。石炭が発見されて人が集まりだすとニコニコし、閉山後、人がいなくなり一人ぼっちになると涙を流し、うとうとしていたら突然、世界遺産になってびっくり!まさにアニメを見るだけで軍艦島の歴史がざっくりわかるというスグレモノなのです。
先日は、チトセピアでTBS系の人気テレビ番組『クレイジージャーニー』の奇界遺産でおなじみの佐藤健寿氏と軍艦島3Dプロジェクトに携わる長崎大学の出水亨氏が「軍艦島と世界の廃墟」と題したトークショーを行い、ほぼ満席となりました。佐藤さん、私もごく最近同番組のDVDでもって知ったのですが、世界各地の廃墟に乗り込んでは貴重な写真を撮るツワモノで、彼の語る軍艦島の魅力は、新たな切り口として発信されたようです。
その姿が軍艦「戦艦土佐」に似ていること。近代化の荒波の中でも他にはない特別な歴史を背負ってきたこと。1974年の閉山による突然の撤収でタイムカプセルのようにフリーズしてしまったこと。軍艦島は人々の興味をいろいろな方向からかきたてて、さまざまな表現で紹介されています。
見えないものを知る書籍が果たす役割
上陸ツアーが盛り上がる中で、軍艦島をもっと知りたいというニーズに応えて、長崎文献社もいくつかの書籍を発行してきました。『群青はるか軍艦島』はフォトグラファー松尾順造氏による軍艦島の今と、貴重な資料写真による写真集です。ツアーでは島の一部しか見られないため、一般立ち入り不可のエリアの様子はこのような写真集でしか知ることはできません。また、長崎游学シリーズ4『軍艦島は生きている!』は、ありし日の一番にぎやかな軍艦島の生活の様子がわかりやすく紹介されており、この島が濃厚なコミュニティを形成していたこと、大正時代の日本初の鉄筋コンクリート住宅など建築史的にも珍しいものが存在することなどがわかります。
さらに、加地英夫さんの『わたしの軍艦島記』は島で生まれ育った加地さんならではのエピソード、明治に始まる歴史や炭鉱内部の様子、年中行事から労働組合争議まで、よりリアルにきめ細かに記録されています。軍艦のその形の中には、人々の生きた証やノスタルジックな思い出がたくさん詰め込まれているのですね。ちなみにこの本は、昨年の地方出版文化功労賞特別賞を受賞しました。
軍艦島の何が人々を惹きつけるのか。それは時代によって、見る角度によって違いますが、世界的にも貴重なものを将来に向かって大切にしていこうという機運が盛り上がるのは、素晴らしいこと。ガンショーくんを二度と一人ぼっちにしないために。
文・川良 真理
〈長崎文献社〉副編集長。
中通りの〈長崎文献社〉アンテナショップ書店「ブック船長」にも時々出没します。
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